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 この日もフィル様が朝から会議だというので、私はいつものように治癒室へ来ていた。
 治癒士たちが忙しければ診察もしたし、かつての患者から指名が入ることもあって忙しく過ごしている。

 そこへ怒号を轟かせながら、ひとりの貴族が飛び込んできた。

「おい! ここにラティシア・カールセンはいるか!?」
「はい、私ですが……どうかされましたか?」

 真っ赤な顔で怒鳴り散らす貴族のもとへ駆け寄ると、突然胸ぐらを掴まれる。

「お前の治療はなんだ!? 全然治ってないじゃないか! わしの時間を無駄に奪って、どうしてくれるのだ!?」
「治っていない……? 恐れ入りますが一度カルテを確認いたしますので、少々お待ちいただけますか?」

 怒り心頭の患者を椅子に座らせ、私は急いで患者のカルテ一式を探した。

 私たち治癒士は後でこういったトラブルの発生を防ぐため、必ず記録をつけて本人から完治証明のサインをもらうことになっている。

 治癒魔法で治すと怪我や病気の痕跡がいっさいなくなってしまうからだ。その状態で新たに病にかかったり怪我をしたりして治ってないと言われたら、治癒士のミスなのか不正に治療したいのか判断がつかない。