皇太子の非常識な行動に、思わず殺気が漏れ出してしまう。ロザリアが慌てて細腕で俺を抱擁する。

「大丈夫、なにもなかったから。でもあのふたりの目的がわかったの」
「目的……?」
「ええ、私がハリエット様の妻になって、セラフィーナ様をアレスに嫁がせるのが目的だったのよ」
「……ありえない」
「そうよねえ」

 そこでロザリアがふわりと微笑み、言葉を続けた。

「私の最愛を他の女性に譲るわけがないわ。アレスだけはなにがあっても手離さないのに」

 普段から愛の言葉を囁くのは圧倒的に俺からが多い。だからたまにロザリアから強烈な愛情表現をされると、歓喜に心躍り歯止めが効かなくなるのだ。俺はいつもの流れでロザリアに口付けしようと、真っ直ぐに見つめる。

「それは光栄なことだ。わかっていると思うが、俺も同じだ」
「ふふ、わかってるわ。あの、それでね、今廊下ですれ違ったし、さっきまでここにセラフィーナ様がいたでしょう……?」