「あ! アレ——」

 いい加減面倒だったのと緊急事態だったので、聞こえないふりをして扉を閉めた。
 俺の短気でロザリアの努力を水の泡にしないよう、最低限の接触で済むようにしている。あまり邪険にしすぎて拗ねられるとさらに面倒なので適当にあしらっていた。

「で、なぜロザリアの部屋に皇太子がいるんだ?」

 俺は覚醒した竜人の力により、精度の高い魔力感知ができる。すぐにロザリアの部屋に転移しようとしたところで、皇太子が部屋から出ていった。続いてロザリアが俺の部屋に向かってきている。

「……一歩遅かったか。あの女が邪魔しなければすぐに駆けつけたんだが」

 ロザリアが部屋の前までやってきたところで、そっと扉を開くと珍しく俺の胸に飛び込んできた。

「アレス……!」
「お嬢様、どうされましたか?」

 そっと背中を抱き寄せつつ、扉を閉める。だけど、ロザリアからわずかに皇太子の移り香が鼻先を掠めて、一瞬で冷静さを失った。

「ロザリア、皇太子になにをされた?」
「え? あ、なにもされていないけれど……仮眠をとっていたら目が覚めた時に目の前にいたの」
「は? なぜだ? 確かに鍵もかけていただろう?」
「それが私が寝入っててノックに返事をしなかったから、心配して合鍵で入ってきたと言っていたわ」