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 俺はロザリアの専属執事として馬車に同乗したが、オースティン伯爵家に着くまでよく我慢したと思う。

 いや、馬車だけじゃない。あの皇太子と皇女が旅についてくると言ってから、目の前で俺のロザリアに近づこうとする雄を殺気を放たずこらえていた。

 しかも途中の宿屋ではなぜかロザリアと別室にされ、あのクソ皇太子と同室という地獄だった。

 だけどロザリアがラクテウス王国のため懸命に魔道具の販路確保に尽力していたから、その気持ちを尊重していた。本来ならロザリアと同室に持ち込むところも、おとなしくしていた。

 皇太子からはロザリアの好きな食べ物や飲み物、趣味や嗜好について細かく聞かれたので常に二番目に好きなものを教えていた。一番好きなものと聞かれなかったから、問題ないだろう。

 それでも結婚前の九年間に比べたらマシかと、短いため息をついた。
 オースティン伯爵の屋敷では個別に部屋を用意され、ロザリアが疲れている様子だったのでリラックスできるカモミールティーを淹れて部屋を出てきた。

「ねえ、アレス殿下、聞いてますか?」
「ああ、申し訳ありません。長旅で疲れが出たのでひとりにしてもらえますか?」 
「お疲れでしたら、わたくしが癒して差し上げますわ!」
「いえいえ、結構です。それには及びませんので。では」