ピリッと肌に刺すような魔力が、アレスからわずかに放たれる。ほんの一瞬のことで、ハイレット様もセラフィーナ様もまったく気が付いていない。

「ロザリアは俺の妻だ。妻の世話をするのに、俺以外の誰が適任だと言うのだ?」
「そ、それは、私だってロザリア様のお世話はできますし、素材探しもありますので……」
「そうよ、お兄様がロザリア妃殿下のお世話をしている間は、わたくしがアレス殿下をもてなしますわ!」
「わからないか。俺の唯一に触れるなと言っているんだ。それから、俺のもてなしも不要だ」

 静かだけれど否と言わせない覇気をまとい、アレスが帝国の皇太子と皇女を退けた。
 アレスの毅然とした態度に、震えるほど歓喜する。

 ハイレット様は渋々といった様子で、店の奥へと進んでいった。セラフィーナ様は私を睨みつけて、ハイレット様の後を追いかける。

「ロザリア、すまない。我慢できなかった」
「いいえ、アレスが私だけ見てくれて嬉しかったの……私こそ心が狭くてごめんなさい」
「へえ、そんなに嫉妬してくれたのか?」

 アレスが獲物を狙う目で、私を捕える。夜空の瞳の奥には私以上の狂愛が満ちていた。