アレスは納得していない様子だったけれど、チェックアウトの時間も近づいてきたのでホテルから出発することにした。
 フロントに鍵を返して、いざホテルを出ようと振り返ると、そこに旅支度を整えたハイレット様とセラフィーナ様まで立っていた。
 思わずアレスと顔を見合わせてしまう。

「ロザリア様! おはようございます。お約束通りロザリア様の望みを叶えにやってまいりました」

 私はアレスとふたりきりの旅に出るため、申し訳ないがハイレット様のご厚意を丁重に断ることにした。
 ハイレット様が私に話しかけた隙に、セラフィーナ様がアレスに嬉しそうに近寄るのを横目でちらりと見る。

「おはようございます、アレス殿下! 昨夜は本当に素敵できしたわ! 今日は……使用人のような格好ですけれど、これが旅の衣装なのですか?」
「いえ、私はもともとお嬢様の専属執事でしたので、これが通常スタイルです」
「えっ! ロザリア妃殿下はアレス殿下を使用人のように扱っていたの!?」
「違います。私が強く希望して専属執事になったのです」

 アレスは淡々と表情も変えずに応対している。ここは夫を信頼して、私もハイレット様に話しはじめた。