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「お嬢様、準備はできましたか?」
「ええ、大丈夫よ。でも本当にハイレット様は旅についてくるのかしら?」

 翌朝、高級ホテルのスイートルームで旅の準備を終えた私たちは、深いため息をついた。アレスの貴重な王太子モードはパーティーとともに終わり、いつもの専属執事に戻っている。

 これから旅に出るので、私は素材集めの時のようにモスグリーンのローブと黒のパンツにショートブーツを合わせている。念のために『魔銃』も装備した。アレスは漆黒の燕尾服を着て、ビシッと隙のない出立ちだ。

 ブルリア帝国の建国記念パーティーでは確かに大きな収穫があった。皇太子のハイレット様から魔道具販売の販路確保の協力を取り付けたられたからだ。

 しかしその一方で、素材探しの旅まで案内すると言い出してきたのだ。
 これは新婚旅行も兼ねているから、できればアレスとふたりきりで回りたい。断る暇なくハイレット様がバルコニーから出ていってしまい、その後、姿を見なかったので断ることができなかった。

「やっぱりふたりきりがいいわよね……もし今日の旅にハイレット様が現れたら、はっきりお断りしましょう。きっと新婚旅行だとご存じないから、よかれと思って申し出てくれたのよ」
「そうだといいのですが」