「アレス様は心配性なのですね。私が毒でも入れたと疑っているのですか?」
「いえ、失礼いたしました。私は普段、妻の専属執事をしていますので、その習慣が出てしまいました」
「は? あ、いや、専属執事ですか……?」
「はい、もともと専属執事でしたので」

 そんな男に私は負けたのか? いや、それなら私が求婚すれば、小国であるラクテウスの王太子などに負けることはないか。従僕ごときが夫だったとは予想外だったが、私の勝利は目の前にあるようだ。

 私は蔑みの視線を隠して、自分の顔を武器にロザリアへ微笑む。

「それは初耳でした。それでは早速ですが、ロザリア様の望みをお聞かせいただけますか?」
「ありがとうございます。それでは、私の希望としましては——」
「お楽しみのところ失礼いたします。こちらにアレス王太子殿下はいらっしゃいますか?」

 タイミングよく何者かがバルコニーにいる私たちに声をかけてきた。

「いったいなんだ。これから大切な話があるのだが」

 父上の支援だと気付いた私は、邪魔をするなというように返事をする。姿を現したのは、焦った様子のアステル王国の国王クライブだった。