これは実体験だ。ずっとお嬢様やロザリア様と呼び続けていたが、想いが通じたあの日勢いに任せてロザリアと呼んだ。心臓がはち切れそうになっていたけど、どうやってもロザリアを自分のものにしたかった。

「そうなのですか……そうですわね。ええ、わかりましたわ、アレス殿下!」
「では妻が気になりますので、これで失礼いたします」

 ロザリアの心に害をなす女のくせに馴れ馴れしく俺の名を呼ぶなど、誰が許可するものか。御しやすい女を前に俺は冷酷な笑みを浮かべた。

 それから急いでロザリアのダンスが見える場所まで移動した。
 何組ものカップルがダンスホールで踊っているが、一瞬でロザリアを探し出す。ロザリアの表情を見れば、どんな気持ちで踊っているのかすぐにわかった。

 あれは心から楽しんでいる顔ではない。社交の場だから笑みを浮かべているだけだ。ダンスだってロザリアのよさを活かしきれていない。時には大胆に、時には繊細にステップを踏まなければ、彼女の内面は表現しきれないのだ。

 俺の番だというのに、ロザリアは非常に人気がある。
 どこに行っても恋情のこもった視線を送られるのだ。あれだけ美しく、聡明で穏やかな人柄なのだから仕方ないのだだが、本人はまったく気が付くことはなく俺だけを見つめてくる。

 それはそれで嬉しいが、俺のロザリアに熱い視線を送られるのはやはり気に食わない。今だって、ハイレットが踊りながらギラギラした瞳でロザリアを見つめていた。

 この場で喉元を掻っ切ってやりたい衝動が込み上げてくる。だが、国際的な社交の場だからグッとこらえた。