うるさい女の喚き声はスルーしながら、ロザリアに近づくハイレットについて考えた。
 きっとアイツはロザリアを狙っている。

 穏やかそうな笑顔の下で、虎視眈々と獲物を手に入れるために牙を研いでいる目をしていた。俺がそうだったからよくわかる。同類の匂いがするのだ。

「アレス殿下……? そ、それにしても今日のお召し物も本当に素敵ですわ! アレス殿下の瞳のお色と同じで神秘的ですのね。わたくしも同じ色にすればよかったかしら……今度デザイナーに作らせますわ!」
「セラフィーナ殿下には淡い色が似合うと思います。ピンクやオレンジ、アイスブルーもよさそうだ」
「まああ! 本当ですか!? 実はいつも着ているドレスはそういったお色ですの! さすがアレス殿下……いえ、アレス様ですわ、見る目がありますのね!」

 本当はロザリアが持っていないドレスの色を言っただけだ。ロザリアのドレスはほとんどが俺の衣装と色を揃えてあるから、これで変に被ることはないだろう。ロザリアならどんな色のドレスも美しく着こなすだろうが、やはり自分の色で染め上げたい。

「セラフィーナ殿下はこれから嫁がれる方ですから、言葉遣いは大切だと思います。ですから俺のことはアレス殿()()とお呼びください」
「ええ! でも……なんだか他人行儀ではございませんか?」
「ここで耐えるからこそ、親しい呼び方になった際に喜びがあふれるのです」