すぐにアレスの魔力を追ってみるけれど、やはりどこにも感じない。
 すっかり軽くなった両腕から、あふれる激情とともに思いっ切り魔力を解放する。右手には炎魔法を、左手には水魔法を練り上げた。

「なっ、二種類の魔法を同時に操れんのか!?」
「さすがロザリアだ……! それでこそ我が妻にふさわしい!」
「いい加減にして。私の夫はアレスだけよ。これ以上勝手にするなら、もう遠慮はしないわ」

 私はもう我慢なんてするつもりはない。
 大切なものを奪われないために、全力で抗う覚悟はできている。

「私のアレスを返して」
「くっ、おい! お前、ロザリアをとめろ!」
「はあ!? お前こそ、帝国の皇子なんだからとめろよ!」
「……もういいわ。貴方たちの顔など見たくもない」

 激情にまかせ、こんな屋敷ごと吹き飛ばすつもりで最高威力の魔法を放とうと魔力を練り上げる。
 私は沸々と湧き上がる怒りに身を委ねた。


「許さないわ。私の番を奪うのは絶対に許さない——!!」


 嗅ぎ慣れた柑橘系の爽やかな香りがふわりと鼻先を掠めるた気がした。
 愛しい人の残り香に、どうしてこんなことになったのかと思いを馳せる。

 あれは三カ月前の穏やかな晩冬の日だった——