「ロザリア、海の女神は俺の願いを叶えてくれた」
「アレスは、子供ができるようにお願いしたの?」
「ああ、ロザリアの気持ちの準備ができたら、すぐに懐妊しますようにって祈ったんだ」
「アレス……貴方が夫でよかった」

 こんな時でも必ず私のことを慮ってくれるアレスの言葉に、愛しさが込み上げた。医者がいなければ、抱きついて言葉の代わりにキスしていたと思う。
 アレスにそっと抱きしめられ、アレスは私の肩に額を乗せる。わずかに震える声で囁くように歓喜の言葉をこぼした。

「ロザリア。どうしよう、嬉しすぎて泣きそうだ」

 そう言って破顔したアレスの笑顔が神々しくて、心臓が止まりそうになった。アレスの潤んだ夜空の瞳は、この世のどんな宝石よりも美しく輝いている。そんなにも私との子を望んでくれていたのが本当に嬉しかった。

「アレス、これからは三人で幸せになりましょう」

 こほんと軽く咳払いした医者は器具を片付け終え、ほくほくとした笑顔で立ち上がった。

「では私はスレイド伯爵と奥様にご報告してまいります。まだ妊娠初期でございますので、くれぐれも無理はされませんように」
「はい、ありがとうございます」
「大丈夫だ、俺がどんなことからも守るし、今まで以上に尽くすから」

 軽く会釈した医者は、あとで妊娠中の注意事項を送ると言って部屋から去っていった。アレスの真摯な態度に心強さを感じたものの、今まで以上に尽くすとはどういうことかと考える。