それから一週間後、今日こそアレスに物申したいと目が覚めた瞬間に思った。

「……アレス、おはよう」
「おはよう、ロザリア」

 目を開けると、つやっつやの顔を綻ばせアレスが口づけしようと近寄ってくる。私は反射的に自分の唇を手のひらでガードした。アレスはかまうことなく柔らかな唇を押し当てる。

「ロザリア、手を避けて」
「いいえ、避けません。今日という今日は私の話を聞いてもらうわ」
「……なんだ?」

 寝起きのキスができなくて少し拗ねながらも、私の話を聞こうとするアレスに胸を撫で下ろす。

「あのね、お役目もわかるけれど、アレスと旅行も楽しみたいの」
「うん、わかってる」

 アレスはなにを言っているんだという顔をしているけれど、少しも理解していないのは間違いない。なんだか前も似たような会話をしたと思うのは、気のせいじゃないはずだ。

「だからね、こういうことは夕食の後だけにしましょう」
「……新婚旅行なのに?」
「新婚旅行だからよ。これでは蜜月との違いがわからないわ」
「……そうなのか?」
「ええ。場所が変わったのと食事が運ばれてくるだけで、まったく、なんにも、一ミリも変わらないわ」
「……っ!」

 ハッとして、天井を見上げるように寝転び、右手で顔を覆っている。
 指の隙間から夜空の瞳が覗いて、バツが悪そうに呟いた。

「ごめん、ロザリアと新婚旅行が嬉しくて暴走した」
「いいわ、この後ちゃんと旅行できるなら許してあげる」
「わかった。どこか行きたいところはあるか?」
「そうねえ……」

 こうしてやっとのことで、最初に来た宿から移動することができたのだった。