予想外の名前が出てきたところで、目が笑っていない竜王様が口を開いた。その美貌でうっとりするほどの優しげな微笑みを浮かべて、セラフィーナに声をかける。

 サライア様には決して向けない、本心を覆い隠した作り物の笑顔だった。

「僕を狙うってどういうこと? セラフィーナといったかな、すべて正直に話してごらん」
「は……はい! 最初はアレス殿下の妻になるよう父から指示されました。ところがうまくいかず、今度は竜王様の妻になれと兄からも父からも指示されたのです。ですからわたくしはずっと竜王様にお手紙を送り続け……」
「セラフィーナ、よさんかっ!!」
「あー、なるほどね。もういいよ」

 一瞬で真顔に戻った竜王様は、もうセラフィーナに振り向くことはなかった。しかし手紙を送っていたとは……私たちと別れて帝都に戻ってからは、そんなことをしていたのか。

「竜王様、手紙は初耳です」
「うん、実はね、数日前からやたら濃厚な手紙をもらっててね。毎日何通も届いて迷惑だから放っておいたんだけど」
「め、迷惑ですってえ!? なによ、わたくしのような美しくて賢い女は他にはいないわ!! 私を妻にしないと後悔するのは竜王様よ!!」

 この言葉に竜王様が殺気立つ。私でも震えるような凍てつく視線をセラフィーナへ向けた。