「クリフ様、それではお言葉に甘えて一晩お世話になります」
「そうこなくちゃな! よし、帰りは魔道具で転移するからすぐなんだ」

 本当に渋々だけれど、クリフ様の屋敷で一晩お世話になることにした。
 場所を聞けば、ファステリアの北方にある山の頂上付近にあるそうだ。獣人にとっては山頂に近ければ近いところほど、屋敷の価値が高いという。

 久しぶりに魔道具の白い光に包まれて、そっと目を閉じる。明日にはラクテウスに帰れると、心は浮き足立っていた。



 クリフ様のお屋敷はほぼ山頂にあり、広大な敷地を壁で囲い見張り塔もついている。屋敷というよりは城の方が近い。私の実家など小屋だと思うほどの大豪邸だ。

 室内も上品で高級な家具で統一され、いたるところに名画や美術価値の高い壺が飾られている。これが王族で、しかも大商会を運営する会長の屋敷なのかと感嘆した。
 クリフ様が屋敷の家令へ声をかけて、細やかな気遣いで指示をする。

「おかえりなさいませ、ご主人様」
「ああ、留守中変わりなかったか?」
「はい、特になにもございません。言いつけられた用件も手配済みです」
「そうか……では客人を案内してくれ。今日は疲れてるだろうから、個室を用意しろ。特に女性は丁重にもてなせ」
「承知いたしました」

 家令にも丁寧に挨拶をされた後、それぞれ客室へと案内された。