「ロザリア様」

 念のためと防音の結界をはってから話を始めた。

「この手を取ってください。無理する必要はありません。私がすべて処理します」
「……アレスには隠し事ができないわね。完璧な笑顔だと思ったのに」
「何年お仕えしているとお思いですか。さあ、この手を取ってください」

 この手を取ってくれたら、こんな国など滅ぼしたって構わない。俺の愛しいロザリア様を苦しめてきた国など消してやる。

「アレス。ありがとう。本当にあなたの存在が救いだった。ううん、これからもそうだと思う。でも、この手を取ることはできないわ」
「……何故ですか? お嬢様が望むようにすべて片付けます。なんの憂いもありません」
「つまらない私情で国を揺るがすことなどできないし、何よりもアレスに罪を犯してほしくないの」

 いつもそうだ。そうやって、すべてひとりで背負い込んでいらぬ苦労をするんだ。
 俺の愛しいロザリア様。
 俺はどうすれば貴女を笑顔にできるんだ?

「わかりました。では次に……次にお嬢様が幸せにならないと判断した際は、遠慮なく連れ去ります」
「まあ、それではこれからはウィルバート殿下と仲の良い夫婦にならなければ、大変なことになるわね」

 そういってふわりと微笑んだ。やっと貼り付けたような笑顔ではなくなった。
 ロザリア様がそう望むなら。
 たとえ他の男にその笑みを向けても、耐え忍ぶと決めたから。