それから俺は注意深くロザリアを観察した。気を抜けば惚けてしまうが、ロザリアのために世話をするというのは俺の天職だと気づいてしまった。
 ロザリアのことだけを考えて、ロザリアのためだけにすべての時間を使って、ロザリアに笑顔を向けられる。幸せな毎日を過ごしていた。

 心の奥底から湧き上がってくる独占欲の処理には苦心したけど、ロザリアが俺だけに向けるちょっと拗ねたような顔や、屈託のない笑顔を糧に何とか我慢していた。
 ロザリアが幸せならこのままでいいとすら思い始めていた。

 ところが俺の幸せとは反比例するようにロザリアから笑顔が消え、キラキラと輝いていた瞳は光をなくしていった。
 専属執事になって二年が過ぎた頃、ロザリアに思い切って尋ねた。

「お嬢様。もし貴女がこの婚約を受け入れたくないなら、私が攫っていきましょう。どうか、この手を取って下さいませんか?」

 この頃には滅多に笑わなくなっていたロザリアは、硬い表情のまま差し出した俺の右手を見つめていた。ふぅっと短いため息を吐いて、言葉を続ける。

「アレス、ありがとう。でもそれはできないわ。ウィルバート殿下の婚約者になった時に覚悟を決めたの。家族や領地を守れるならどこへでも嫁ぐと。それが私の役目なのよ」