アレスに連れられてやってきたのは、二階建てのれんが造りの建物だ。グリーンの屋根が目印で市場から歩いて十分の距離と立地も申し分ない。一階部分はもともと店舗だったようで、少し手入れをすれば商売を始められそうだ。

 二階の住居部分はすでに整えられていて、すぐに不自由なく生活が始められる。今腰掛けているソファーもフカフカで座り心地は抜群だ。

「すごいわ、ここまで用意してくれたの?」
「当然でございます。お嬢様がつつがなく過ごせるよう手配しましたが、不足があればすぐに仰ってください」

 離縁をすると決まったのは今朝のことだ。
 お昼前に実家に戻りもうすぐ日が沈む頃だけど、ずっと隣にいたしこの短時間でここまで用意できるものではないだろう。

「もしかして……事前に情報をつかんでいたの?」

 ボニータが懐妊して、私が離縁されると。王城から追い出されると。
 知っていて黙っていたの? だから今朝もすんなり魔法誓約書を用意できたの?