これから向かう先に何があるのか、私はまだ何も知らない。
 白い光の中でつい数時間前の会話がよみがえる。

『行きたいところ?』

 王城の私室で荷物もまとめ終わり慰謝料の準備が整うまでの間、次の行き先をアレスに尋ねられた。

『はい、伯爵家を出たらどこか行きたいところはありますか?』
『そうね……誰も私を知らないところに行きたいわ』
『承知しました。では私の故郷はいかがですか? 秘境なのでおススメです』
『いいわね、そこにしましょう』

 こんな軽いやり取りで行き先がアレスの故郷になった。そこなら間違いなく誰も私を知らないとアレスは自信満々だった。本当にどこでもよかったし知らない国に行けるのは、ほんの少しワクワクした。