「ねえ、アレス……貴方はどうする?」
「どうすると申しますと?」
「私は王太子妃でなくなったわ。一度実家に戻るけどすぐに国を出るつもりよ。だから主従契約はここでお終い。貴方はどうしたい? 伯爵家に戻りたい? 必要なら紹介状も用意するわ」

 アレスは古ぼけたオルゴールを手にしてじっと見つめている。
 それは私が初めてアレスから贈られた誕生日プレゼントだった。聞いたことのない曲だったけど、その不思議な旋律は心地よく私の心を癒してくれて、いつしか大切な宝物になっていた。

「ロザリア様は私と出会った時のことを覚えていらっしゃいますか?」
「ええ、もちろんよ。九年前になるかしら?」
「はい、私がボロ切れのようになって死にかけていたのを助けていただきました」
「懐かしいわね。あの時は私よりも背が低くて幼かったのに、今では頭ひとつ分はアレスの方が大きいもの」
「はい、お陰さまでしっかりと大きくなりました」

 ふふっと笑い合って、まだ私が心から笑えていた時を思い出す。

「でもまさか、本当に私の専属執事になるとは思わなかったわ」
「それは……命を救っていただいたのです。当然のことです」