処理の途中だったものだけ終わらせて、残りは補佐官に事情を話してウィルバート殿下の執務室に運んでもらうよう手配した。執務室にある物は処分してもいいものばかりなので、そのまま置いていくことにする。

 早く立ち去れと言われたので、その通りにしようとアレスと私室に戻ってきた。
 ドレスのままでは支度しにくいので、お忍びで着るようの簡易的なワンピースに着替え大きな鞄を取り出した。

 ウィルバート殿下の命令で侍女たちもすでに引き上げているから、私室には私とアレスだけだ。荷造りを手伝ってもらいながら私は考える。

 この九年間ずっと私の専属執事として仕えてくれた。主従契約があるとはいえ、変わらずにそばにいてくれたのは彼だけだ。
 だからこそアレスには一番幸せになってもらいたい。どうしたら彼は幸せになれるのだろうか?

 このまま一緒に伯爵家に戻ったとしても、王家からの圧力がかかるのは目に見えている。婚姻してから家族にすら一切の接触を許されなかったのだ。大切な人達の側に私がいれば迷惑がかかる。

 アレスだけなら充分に実績を積んでいるから、最悪ほかの屋敷でも執事を続けられるはずだし、これだけ優秀なら他の職業でもやっていけるだろう。だから彼の幸せを考えるなら私と一緒に居続けるのは愚策でしかない。