諦めたはずだった。
 私を見てほしいという気持ちも、私を認めてほしいという気持ちも、愛はなくとも私に寄り添ってほしいという気持ちも。大切な人たちのためにこの身を捧げるという誓いにうまく隠したはずだった。


 ああ、これ以上は私も無理だ。
 もう縋れるものが、何もない。


 心の奥底に残っていた王太子妃として立つための矜持さえも、この瞬間に砕け散って私の体を巡る冷めきった血に溶けていく。

「わかりました。それでは誓約書にある通りウィルバート様とは離縁させていただきます」

 誓約書の最下段に約束を反故にした際は、連名でサインして離縁できるように作成していた。
 わずかに浮かべていたウィルバート様を気遣う気配を捨て去り、本気の冷めた視線を投げつける。私のまるで温度の感じない視線に驚いたのか、一瞬狼狽えたもののウィルバート様はしっかりと魔力を込めてペンを走らせた。


 私も魔力を込めて最下段にロザリア・ヴィ・アステルの最後の署名を綴った。