バカにされていたのは知っているけど、政務はしっかりとこなしていたし面と向かって王太子妃に物申す強者なんていなかった。だから私が見ないふりさえすれば、表面上は問題なかったはずだ。

「ボニータが散々お茶に誘っているのにすべて断っていただろう!? ボクの妻として役目を果たしていないではないか!」

 愛妾とはいえ男爵令嬢から誘われた茶会を、王太子妃の私が断ってなにがいけないのかしら? 何度か招待されたけど月末の一番忙しい時期だったし、決済が滞っては政務に支障をきたすからそんな時間も取れなかったのだけれど。

「たしかにボニータからの茶会は断っておりましたが、それは……」
「忙しいなどと言い訳するな! いくら時間がないとはいえ五年間も断り続けることはないだろう!!」
「五年間……でございますか? 最初の頃に何度かお誘いいただきましたが、それきりでございます」
「とにかくボクはお前との婚姻生活など続けていけないのだ!! いいかげん解放してくれ!!」

 この婚約は王家から打診されて受けたものなのに、私が望んで王太子妃になったとでも言うの? それでもできるだけのことをしようと今まで心も体もすり減らしてきたのは、一体何だったのだろう?

 …………ああ、そうか。
 私がそんな風にしてきたことも、この人が知るわけないんだわ。
 だって私のことをまともに見たことなんて、初めて会った時から一度もないんだもの。