私に求められたのは王太子妃として腕を振るうことで、ウィルバート様の愛情を受け取ることではなかった。

 だから私に回されたウィルバート様の政務も、王妃殿下の政務も処理するのが役割だと黙って受け入れた。私がこなした政務はウィルバート様の実績として周知され、弱者に寄りそった政策は国民たちからも絶大な人気を得ている。

 ウィルバート様が愛妾を囲い込み、日々愛する女性と過ごしているのにも何も言わなかった。王立学院の時からわかっていたことだ。王城に召し上げるタイミングはもう少し考えていただきたかったけど、それも過ぎたことだ。

 私が望んだことはたったひとつ。
 世継ぎ問題を引き起こさないように、愛妾とは子を作らないことだった。
 それが私が王太子妃として望んだ、たったひとつの矜持だった。

 誓約書には両名ともに愛妾が懐妊したと知った時から、一ヶ月以内に離縁するものと書かれている。確かにそう取り決めた。当時アレスの助言に従って罰則も盛り込んだのは万が一の保険だったのだ。

 それを逆手にとって、離縁したいというの……?

「ひとつ伺ってもよろしいですか?」
「うん? なんだ、最後だから何でも答えてやるぞ」
「どうしてそこまでして私を排除したいのですか?」