「お嬢様」

 私を射抜くように見つめる夜空の瞳は、どこか悲しげだ。

「もし私が手を差し伸べたら、お嬢様はその手を取ってくださいますか?」
「……そうね、助けが必要な時はもちろんそうするわ」
「今は助けが必要な時ではないのですか?」

 助けが必要? 一体なんの助けが必要なんだろう?

「今は……必要ないと思うわ。だって卒業パーティーは昨年よりも上手く手配できたし、ウィルバート殿下も機嫌が良かったし、みんな笑顔だったわ」
「お嬢様は? お嬢様は笑顔になれましたか?」
「私? ええ、もちろんよ。みんなが笑顔なら、それでいいの。だからアレス、そんなに悲しそうな顔をしないで」
「…………承知しました」

 揺れる夜空の瞳は俯いて隠されてしまった。彼の膝の上で固く握られた拳はわずかに震えている。

 ねえ、アレス。貴方がそんな風に思ってくれるだけで私は頑張れるのよ。妃教育で気持ちを隠すことを覚えて、心の声はとっくに聞こえなくなったけど。
 でもお父様もお母様もそれに屋敷のみんなも私を応援してくれる。
 ……だから私はまだ頑張れる。