それなのに妃教育は終わることなく続けられている。私はウィルバート殿下のために努力し続けるしかなかった。
 最終学年も残り三ヶ月と迫ったある日の帰り道にアレスが私に問いかけてきた。

「お嬢様。私はお嬢様の専属執事ですから、貴女の幸せだけを考えております」
「ええ、いつもそう言ってくれてありがとう」

 いつになく真剣な表情のアレスに私はどうしていいのかわからず、いつものように無難に答えを返した。この頃には妃教育の賜物で無駄な感情表現もなくなり、いつも優雅な微笑みを浮かべていた。

 アレスの夜空のように煌めく瞳が一瞬だけ揺れて、切なげに私を見つめる。

「お嬢様は……今なにを望みますか?」

 その問いに答えられなかった。
 私は自分が何を望むのか、もうわからなくなっていた。