「ロザリア、今日の朝食は最高級のフルーツを用意させたんだ」
『お嬢様、今日のフルーツは旬のものを用意しました。鮮度も味も良いものですよ』

「待たせたな、この茶葉は貴重なものでなかなか口にできないんだぞ」
『お嬢様、こちらの茶葉は私のオリジナルブレンドですので、飲みたくなったらいつでもおっしゃってくださいね』

「このドレスはどうだ? 王都一の店で仕立てたんだ。よく似合うぞ」
『お嬢様は何を着てもお似合いですが……このネイビーのワンピースを着て、私の瞳色になったお嬢様が一番好きです』


 アレスを思い出すたび、届けられない想いに心は悲鳴をあげていた。やがて以前のように笑えなくなっていく自分に気づいていたけど、もうどうにもできなかった。
 私を笑顔にしてくれた専属執事はもういないのだ。私はあの大切な存在を自ら手放したのだ。

「私もいい加減諦めが悪いわね……」

 アレスの瞳のような夜空を見上げながら、収まるどころか募っていく想いに自嘲した。
 あの時はわからないと言った愛が、今では嫌というほど理解できる。

 ほろりとこぼれ落ちた雫が頬を濡らした。
 とっくに枯れたと思っていた涙が込みあげて止まらない。こんなことになって更にアレスへの想いを深めるなんて、私はなんて愚かなのだろう。

「アレス……私は、貴方を……」

 愛してる。貴方だけを愛してる。
 言葉にできない想いは涙に姿を変えて、私の心を締めつけた。