生徒会長の私と副会長のウィルバート殿下は、学院の慣習に従い新入生の案内係だった。誰が見ても見目麗しいウィルバート殿下に新入生たちはうっとりとしている。
 私の前を通り過ぎて、隣に立っていたウィルバート殿下に声をかけてきたのは男爵令嬢のボニータ・ファンクだ。

「あのぅ、すみません。私Cクラスなんですが、教室の場所がわからなくて教えていただけませんか?」
「あ、ああ……それならボクが案内しよう。こちらだ」

 ボニータは薔薇のような深紅の艶髪をなびかせ、スカイブルーの瞳はキラキラとまばゆく輝いていた。そんな彼女にウィルバート殿下が一目で恋に落ちる瞬間を私は隣でじっと見つめた。

 悲しみも嫉妬も何も感じない。ただ目の前の現実を受け入れる。それから私がウィルバート殿下の隣に立つ事はなくなった。

 ウィルバート殿下は学院での自由時間はほとんどボニータとふたりきりで過ごし、時折そのまま早退していた。
 何かに参加する際はいつでもボニータを連れて歩き、友人よりも近しい距離で密かな会話を交わしているのをよく見かける。

 ボニータはよく私に優越感にひたった顔を向けて話していたけど、もう気にならなかった。ふたりはどこからどう見ても恋人同士だったし、そんなに想いあっているなら私との婚約もなくなるかもしれないと思い始めた。