ウィルバート殿下にどんなに言葉や態度で示されても、私の心には響かなかった。
 そんなことをされても浮かんでくるのは、私の髪を優しくなでるアレスの大きな手、『お嬢様』と嬉しそうに呼ぶ声、ふとした時に見せる恋情のこもった夜空の瞳。

 覚悟してきたつもりなのに全然ダメだ。こんなにも私の中はアレスであふれてる。何をしても何を見ても、ずっと側にいてくれたアレスが恋しくてたまらない。

 それからウィルバート殿下はマメに私の元に姿をあらわした。食事を持ってきたり、お茶を持ってきたりと甲斐甲斐しく世話をしてくれる。王城であれば侍女に任せるべきこともウィルバート殿下が自ら行っていた。
 侍女もついていないけどラクテウスでの暮らしで自分の身の回りのことは出来るようになっていたので、今のところ不自由はない。だけど、ウィルバート殿下の変化は正直気持ち悪かった。
 そして困ったことに世話をされるたびにアレスと比較してしまう。