「ロザリア、今日からここが君の部屋だ」

 通されたのは王太子妃が使う部屋だ。婚姻期間では一度も通されたことがなかったのに、離縁した後に使えと言われるなんて皮肉でしかない。ウィルバート殿下はボニータに使わせるつもりだったけど王妃様の許可が降りず、結局誰も使っていないままだった。
 今更そんな部屋に案内されたところで心が冷えきっていくだけだ。

「やっと部屋の主人が戻ってきたな。君のために整えておいたんだ。好きしていて構わないぞ」
「……ウィルバート殿下、これで私の父と母は解放してくださるのですね?」
「ああ、僕との婚姻がすんだら解放する。今準備を整えているから、少し待っていてくれ」
「ではそれまでの間は父と母の安全を保証してください。もし何かあったら、その場で自決します」

 本当は父と母が解放されたらそのままこの世界から消えようと考えている。こんな風に家族を盾に取られて、こんな男のものになるのを受け入れるつもりはなかった。

 もういい。こんな奴らの思い通りになるくらいなら、この世界から私がいなくなればいい。
 あの穏やかで優しい笑顔は見られない、あの夜空の瞳にも私が映ることはない。アレスの側にいられないなら、こんな世界に未練なんてない。
 アレスを愛してると気づいてしまったから、こんな男に汚されるより死んだ方がマシだ。