「姉上、ボクも同席します」
「いいえ、ダメよ。あなたにまで何かあったら困るもの。幸い私宛だし、ひとりで構わないわ」
「姉上!」
「セシリオ、今感情的になることは得策ではないわ。こんな時こそ冷静に物事を判断するのよ」

 どんな言いがかりをつけられるかわからないので、セシリオには待機していてもらおう。万が一私に何かあれば、お父様とお母様のために動けるのはセシリオしかいないのだ。
 私は深呼吸してから応接室に向かう。一際高級な扉をノックすると、以前とは別人のような声が聞こえてきた。

「ロザリアか! 入ってくれ!」
「お待たせいた……」
「ああっ! 本当にロザリアだ……ロザリアッ……!!」

 最後まで言葉を続けることもできず、感極まった様子で抱きしめてくるウィルバート殿下に困惑する。

 何? 一体何なの? え、私はボニータではないわよ?
 そもそも婚約してからだって、私に触れたことすらなかったくせに……気持ち悪いわっ!!

 全身にゾワリと立った鳥肌を何とか堪えつつ、ウィルバート殿下の胸をそっと押した。