「他にないの?」
「これがいいんです」
「そ、そう。アレスがそれでいいと言うなら……五分くらいいいわよ」
「ありがとうございます」

 そう言ってアレスは妖艶に微笑む。ゾクリと背筋が震えたけど引き返すには遅かった。
 書類や部品に埋もれそうになっているソファーを整えて、アレスがゆったりと腰掛ける。目の前のテーブルに砂時計を置いて、それはもう(あで)やかな笑顔で言った。

「ではお嬢様、《《ここ》》に座ってください」

 指さされた場所はアレスの膝の上だ。見間違いかと思って何度も瞬きしたけど私の視力は正常だった。

「そこは……座るところではないわよね?」
「何をおっしゃるんですか、お嬢様の特等席ですよ」

 しれっと何か言っていたけど、半分くらいしか耳に入ってこない。ドッドッドッと脈打つ鼓動が次第に大きくなって耳に響く。

「お嬢様、これは私への褒賞ですよ? 仕事を頑張った従僕を労っていただけませんか?」
「わ、わかったわ……っ!」

 ゆっくりとアレスの膝の上に横向きで腰を下ろした。思ったよりも硬い感触にさらに鼓動が速くなる。すぐにアレスの左腕が私の腰をホールドして身じろぎひとつできなくなった。

「では、今から五分は私の好きにさせていただきます」