ジルには何度も嘘を吐いて来た。
だけど、元々嘘を吐くことが嫌いな性格だから、その度に後悔して申し訳なさで苦しかった。

人生一度きり。
あの日、あの夜、ジルと過ごした時間があったからこそ、元彼のことをすっぱりと忘れることが出来た。
だから、あの時間は決して無駄ではなかったと思うから。

「リーダー」
「ん」

彼の練習時間が回って来たようだ。

「怪我に気を付けて」
「ありがとう」

私は観客席の後方の端の席に座った。
公演日ではないのだから、前方の特等席で見てもいいのに。
何故だかは分からないけれど、間近で直視出来そうになくて。

アリーナ状の設計の設営テントの観客席は1500人ほど収容出来るようになっている。
長い梯子を上るジルを上段の席から見守る。
案内してくれたスタッフから教わったデータでは、地上13メール、4階相当の高さらしい。

梯子の最上部へと上がったスタッフ5名。
声掛けしながら練習が始まった。

スイングしてるだけでもハラハラドキドキしてしまうのに、くるくるっと回転したり捻りながら合わせ技で飛び移る様は圧巻。
ジルは足先をブランコに掛けた状態でスイングし、両手で他のメンバーをキャッチし、リリースしている。

あの足先が外れたらどうなるのだろう?
当然キャッチミスは許されず、リリースミスだなんて論外だろう。
阿吽の呼吸とでもいうのだろうか。
ジルの声に残りの4人が合わせているように見えた。

あっという間の30分間。
スタッフの合図で練習が終了したようだ。

ジルは下に張られたネット部分に落ちるように、2回転1回捻りをしながら着地した。
いつ見ても綺麗なムーンサルトで。