「いないよ」
「え?………いないの?」
「ん」
「何で?」
私の質問に首を傾げた。
元々イケメンなのに、更に大人の男の磨きがかかって。
いないだなんて、ありえない。
世の女性が放っておかないだろうに。
「好きな人はいるの?」
7年前ならお酒の力が無いと聞けなかった質問が、30歳を目前にして、すっかりオバサン化したのか、聞きづらい質問もサラッと聞ける。
色んな人相手に仕事をして来たスキルなのかもしれないけれど。
「……いるよ」
「いるの?!」
「どんな人?可愛いの?綺麗系?どんな仕事してるの?まさか、学生じゃないよね?」
「たくさん聞かれても困る」
「あ、……ごめん」
ずけずけと口にしてしまった。
案内してくれたスタッフがアイス珈琲を持って来てくれた。
夏真っ盛りのテント内は冷房がついていても蒸し暑くて。
肌にじんわりと汗が滲む。
つい数分前までトレーニングをしていたジルは額から汗を流し、アイス珈琲を一気飲みした。
そんな彼の首に掛けられているタオルで、彼の汗を拭ってあげると、彼の熱い手にぎゅっと掴まれた。
「ナナは恋人いるの?」
「………いないよ」
「好きな人は?」
「……作らないようにしてる」
「どうして?」
どうして?と聞かれても……。
恋愛はこりごりだという思いと、あの時のあなた以上にときめく人が現れなかったから。
親友の智子や久美に紹介され、何度も合コンをしたけど、ジル以上に心を揺さぶられる人がいなかった。
だから、29歳にもなって未だに恋人も作らず仕事に没頭している。
「好きになれる人が現れなかった、からかな」