そこにいたのは、7年前にマンハッタンで出会った彼だった。
「ナナ?………ナナッ!」
私の声に気付いた彼は車から飛び降り、私の元へと。
7年前と変わらぬ澄んだ瞳にスッと通った鼻梁。
鍛え抜かれた筋肉美は健在で、それに大人の男の雰囲気がプラスされて魅力的になっていた。
「ナナ、どうしてここに?」
「ここで仕事してるの、今」
すっかり日本語が上手くなっていることに驚きつつも、彼とこんな場所で、しかもこんな時間に再会するなんて思ってもみなくて、上半身裸の彼をじっと見つめてしまった。
「ジルはどうしてここに?もしかして、サーカス団にいるの?」
「うん」
元オリンピックの選手として活躍していた彼。
あの翌年のオリンピックで、彼は床と鉄棒の個人で金メダルに輝いた。
その後すぐに引退してしまい、ネットで検索しても動向が全く途切れてしまっていた。
自分から連絡を絶ったのに、彼のその後が気になっていただなんて笑える。
けれど、陰ながら応援したかった。
「オリンピックの金メダル、おめでとう。テレビで観たよ」
「フフッ、ありがとう」
私の視線が気になるのか、彼はTシャツを着た。
そして、どちらかともなくボンネットに寄り掛かった。
「ナナ」
「ん?」
「なぜ、連絡してくれなかったの?あの日、ナナを……」
彼が言おうとしていることが分かる。
あの日、私を抱いてしまったから?と言いたいのだと。
「スマホをね、壊してしまって。連絡先が分からなくなったの」
「……ホント?」
「ん、……だから、謝ることも出来なくて、ごめんね」
また彼に嘘を吐いてしまった。
本当は彼から逃げたのに。



