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「ハア……ハアッ……」
押し寄せてくる後悔と、今も消えない劣等感。
双子として生まれて、双子としての喜びもたしかにあったはずなのに、美憂にひどいことを言ってしまった。
謝ってないのに、美憂と話せていないのに、彼女はもうこの世界にはいない。
私たちは、仲直りすることができない。
『ねえ、和香ちゃん。水飴症候群って知ってる?』
耳の奥で美憂が問いかけてくる。
『そんなに強い絆で結ばれた姉妹なんて、憧れちゃうよね』
ごめん。私はそんな風にはなれなかった。
美憂を傷つけることしかできなかった。
息を切らせてたどり着いたのは、赤色の紫陽花が咲く公園だった。
私がいなくなればよかったんだ。
美憂じゃなくて、私が、私が――。
「なにしてんの?」
後悔に押し潰されていると、雨がやんだ。いや、雨が降っているはずなのに、私は濡れていない。
「ずぶ濡れじゃん。どうした?」
傘を傾けてきたのは、小暮だった。どうしてひとりになりたい時に限って、現れたりするのだろうか。
「傘は? とりあえず一旦そこの東屋に……」
引っ張られた手を、私は強く払った。
「優しくしないでよ」
優しくなんてされたくない。とくに小暮には。
「お願いだから、どっかに行って」
「なんでキレられてんのかわかんないけど、このままだと風邪ひくぞ」
「そんなの、あんたには関係ない」
「関係ないけど、見過ごせない」
「だから優しくしないでって言ってるじゃん……っ! 嫌い、嫌い、小暮のことも大嫌いっ」
私が美憂に対してどれほど醜い感情を持っていたのか、想像もできないしょう。
美憂の口から小暮の話が出るたびに妬んでいたことなんて、知らないでしょう。
もて余すほどの愛情を受けてるくせに、好きな人ができて、両想いになって、あふれるばかりの幸せを、あの子は手に入れてた。
だから、小暮なんて大嫌い。
美憂のことが今も好きで好きで、どうしようもないくらい好きなくせに、なんで私にかまってくるの?