紫陽花が泣く頃に




美憂は病気だから愛されていたわけじゃない。

美憂は愛される才能を持っていた。

だから、私が病気になればよかったんだ。

双子として同じ遺伝子を持つならば、美憂じゃなくて私でよかったのに。

「そ、そんなこと思うはずないじゃない」

「本当に? じゃあ私と美憂を天秤にかけたらどっちが大切?」

「なにをバカなことを……」

「バカだよ。でもお母さんの中では考えなくても答えが出てるはずでしょ?」

自分でも、なんて幼稚なことを言ってるんだろうと思う。でもあの日、悟ったんだ。

――『私は美憂から離れることはできない』

お母さんがそう言った瞬間、私は愛されてないんだって気づいた。

「ねえ、答えてよ」

追及するように聞くと、お母さんの唇がゆっくりと動いた。

「……たしかに和香の言うとおり、私にとって美憂が一番だったわ」

ショックは受けなかった。ただ私はわかりきっていたことをわざわざお母さんに言わせた。まるで罪を認めさせるみたいに。

「でも聞いて。和香は妹だったけど立場的にはお姉ちゃんみたいなところがあったから、安心してたのよ。私が手を貸さなくてもなんでもテキパキできる子だったから、それで――」

「違うよ」

「え?」

私はそんなにお利口じゃない。ちゃんとやらなきゃって思っていたのは、お母さんの負担になりたくなかったから。

自分だけでテキパキ動いていたのは、私なんかに気をとらせたらダメだと思っていたから。  

でもその裏側で、いつもひとりで泣いてた。

ワガママを言ってはいけない。迷惑をかけてはいけない。そうやって、つねに気を張ってた。

そうしたら、強い子だと思われるようになった。

私は強くなんてないのに。

「……お母さんは、やっぱり私のことをなんにもわかってないね」

心のダムがついに、崩壊した。我慢していた感情があふれ出して、勢いよく立ち上がる。

「……ま、待って。和香っ!」

お母さんから引き止められても、後ろは振り返らなかった。