紫陽花が泣く頃に



この家を離れてから、お母さんに心配されることはなかった。いつだって、お母さんの関心は美憂に向いていたから。

寂しい時に、寂しいと言えないほど、お母さんと私の間には距離がある。それは今でも埋まっていない。

「和香は……見ないうちにずいぶんと顔が大人っぽくなったね」

お母さんが、私も顔をまじまじと見ていた。こんなにも母の視線を独り占めしたのは、いつ以来だろうか。

ティーカップから、湯気が薄れていく。それと同時に漂ってきたのはお線香の匂い。リビングと繋がっている隣の和室には、美憂の仏壇が置いてある。

本当は真っ先に手を合わせなきゃいけないことはわかっていた。でも今は、美憂の前に座れる気分じゃない。


「美憂の写真、相変わらずいっぱいだね」

リビングは写真立てであふれている。幼い時の美憂からはじまって、亡くなる間際に撮られたであろう写真も飾られていた。

「……少しずつ整理しなくちゃって思ってるんだけどね」

お母さんは歯切れ悪くそう言ったけれど、きっと美憂の写真がなくなることはないと思う。

お母さんにとって美憂は宝物だった。だからこそ、健康に産んであげられなかったことをずっと悔やんでた。その悔いを愛情に変えて、お母さんは深く深く美憂のことを愛した。

とても美しい家族の形。私が他人だったらそう思えていただろう。

でも私も、お母さんの子供だった。

愛情深く育てられている美憂の隣にいるだけで、私はその愛情を受けることはなかった。


「ねえ、お母さん」

言っちゃいけない。言ったら崩壊してしまう。

それでもいまだに消化できていないこの気持ちは、もう抑えることができなくなっていた。


「本当は美憂じゃなくて私が病気だったらよかったでしょ?」