紫陽花が泣く頃に



――『ねえ、和香ちゃん。水飴症候群って知ってる?』


いつだったか、美憂からそんなことを問われたことがあった。水飴症候群と書いて、読み方はドロップシンドローム。私はすぐさま『なにそれ』と答えた。

『この町の言い伝えだよ』

『こんな田舎町に言い伝えなんてないでしょ』

『それがね、あるんだよ』

美憂は一拍置いたあと、ゆっくりと教えてくれた。


『大昔に、ちっとも雨が降らない大干ばつがあったの。食料不足でみんな途方に暮れているところにひとりの女の子が、自分の身を神様に捧げる代わりに雨を降らそうとしたんだ』

『それで雨が降りましたって話?』

『雨はたしかに降ったんだけど、それは残された妹が姉を想って流した涙だったんだって』

『ふーん』

『そんなに強い絆で結ばれた姉妹なんて、憧れちゃうよね』


私はなにも答えなかった。言い伝えなんてあるわけないと思っていた気持ちの他に、妹が姉を想って流した涙が綺麗な理由だけじゃないかもしれないと考えてしまったからだ。

……本当は神様に身を捧げるほど心優しい姉に、嫉妬していたかもしれないじゃないか。

そんなふうに思ってしまうほど、私はひねくれた考え方しかできなくなってた。