じわりじわりと水紋のように広がっていく記憶。

学校を終えた俺は、雨に滲むコンクリートの上を歩いていた。ちょうど美憂の病気を知った道にたどり着いて足を止める。

雨は絶え間なく雨水桝へと流れていくのに、あの時の美憂の涙や悲しい顔だけは俺の中から流れていかない。

美憂は先天性の心臓病だった。

考えてみれば、彼女は激しい運動の体育はいつも見学で。運動音痴なんだよねと笑いながら、バレーやバスケの時だって、ボールが回ってこないポジションを自ら好んで立っていた。

だから、もう少し早く気づけたはずだった。

美憂の彼氏である俺が、もっと早く気づいてあげるべきだったんだ。

――『でも治療をすれば治るんでしょ?』

あの時の俺は、現実を受け入れることができなくて、そんなことを口走った。

浅はかだったと思う。

治るのならば美憂が病気のことを隠す必要はないし、薬を飲んで大丈夫だったならば、ごめんなさいと謝ることもなかったというのに。

なぜ神様は美憂のことを病気にしたのだろう。

世の中には悪い人間が腐るほどたくさんいるっていうのに、どうして彼女だったのだろうか。

『千紘くん。約束して』

美憂と交わした最後の言葉が、今も耳から離れない。