紫陽花が泣く頃に



……ぽつ、ぽつ。ビニール傘に雨が落ちてくるたびに、湿った音色を奏でている。

それはまるで、雨音という名の楽器みたいだ。

ふいに弾けて飛んでくる焚き火の音、あるいはラジオから聴こえてくるノイズ音。雨が作り出す音の例えをひたすらに考えながら、家へと続く道を歩く。

すると、道路脇に植えられた紫陽花の前に、女の子が佇んでいた。

ぽつ、ぽつ、ぽつ――。

女の子がさしている傘にも、同じように雨が当たっている。なぜかドキッと心臓が大きく鳴った。その薄ピンク色の傘が……彼女の持っていたものと似ていたからだ。

俺の視線に気づいたように、女の子が傘を傾けてこっちを見てきた。

女の子は俺と同じ学校の制服を着ていた。

可愛いわけでもオシャレでもないセーラー服に、紺色のハイソックス。学校名がでかでかと入っている指定のスクールバックを肩から下げて、女の子は俺に鋭い目つきを向けてきた。

人の名前と顔を覚えるのは苦手だけど、この子のことは知っている。

同じ学年でB組の柴田(しばた)和香(わか)

クラスは違うけれど、廊下ですれ違ったり選択授業で一緒になると、必ずこうして俺のことを睨んでくるのだ。

同中出身でもなければ、挨拶すら交わしたことがない。当然睨まれるようなこともした覚えはないけれど、柴田は必ず俺を見ると露骨に顔をしかめる。