「和香ちゃん、すごい、手際がいいね!」

早速台所に立つと、美憂はいちいち感動していた。私はただ材料を入れたボウルを菜箸で混ぜているだけだ。それで手順は、立て掛けて置いてあるスマホの動画の中の人が教えてくれている。

「クッキー作りなんて、お母さんに頼めばよかったのに」

お母さんは料理上手だ。美憂が頼めばお店みたいなクッキーを一緒に作ってくれるはずだ。

「お母さんがいなくても、なるべく自分で作れるようにしたかったの」

美憂は続けて「へへ」と笑った。私にはなにかを誤魔化しているように見えた。

お母さんには美憂が必要で、美憂にもお母さんが必要。昔からある意味、依存し合ってるような関係だったから、その言葉は意外だった。なにか心境の変化があったんだろうか。

「なんか変わったことでもあったの?」

聞きながら、混ぜ終わったボウルを美憂に渡した。

「あ、お母さんと喧嘩してるわけじゃないよ?」

「それはわかってる。例えば体のこととかさ……」

「そっちはなんにも変わらないよ。病院でもそう言われてるし」

それがいい意味じゃないことは、知っている。

「小暮には……話してあるの?」

美憂は彼と付き合いたいと思っている。ただの友達ならいいけれど、これから発展する可能性があるならば、小暮にとっても無関係な話じゃない。

「話して……ないよ」

「言わないの?」

「千紘くんには、言いたくない」

ボウルの中で生地を捏ねていた美憂の手が止まった。ぎゅっと指先が強くなったのを私は見逃さない。

「生地を捏ねすぎると、クッキーが固くなるんだってよ」

「え、うそ、やだ。もうこのくらいでいいかな?」

美憂は暗い顔をやめて、すぐ笑顔に戻った。