柴田は愛嬌がないぶん、周りから勘違いされやすい。今日も朝から菅野と揉めている姿を目撃した。様子を窺いながら聞き耳を立てていたけれど、話してる内容まではわからなかった。

クッキーは授業が終わる十五分前に焼き上がった。クッキングシートが敷かれているトレーには、香ばしい匂いを漂わせたクッキーが並んでいる。ひとり七枚ずつ配られることになって、持ち帰ってもいいし、ここで食べても構わないそうだ。

「早く選ばないと形がいいの取られちゃうよ」

柴田の言うとおり、綺麗なクッキーがあっという間に減っていく。正直、余り物でもよかったけれど、残っていた一枚のクッキーが目に止まった。

「これって……」

思わず手を伸ばしたのは、犬のような形をしたクッキー。それは、美憂が作ってくれたものとまったく同じものだった。

「触ったなら……責任持って食べてよね」

柴田が少しだけ気まずそうにしていた。もしかしたら自分で選ぶつもりでいたのかもしれない。

これが犬じゃなくて、パンダだということを知っている。そして作ったのが柴田だということも。

責任を持って、クッキーを口に入れた。

美憂と同じ味だった。