俺の身寄りは母方の祖母だけで、両親はすでに他界している。ばあちゃんとは去年まで一緒に生活していたけれど、高校に入学してすぐに認知症が悪化して、現在は施設に入ってる。
親代わりとして、ばあちゃんは俺のことをここまで育ててくれた。
ばあちゃんは礼儀作法に厳しい人だったけれど、しっかりと出来た時にはうんと褒めてくれる人でもあった。だから俺もばあちゃんに喜んでほしくて、勉強も運動も人並み以上に取り組んできた。
でも今はばあちゃんに会えるのは、二週間に一度程度。『孫の千紘だよ』と言うと笑ってくれるけれど、きっといつかは俺のことを忘れてしまう日が来る。
そんなばあちゃんを言い訳に使ってる俺はちっとも偉くなんてないし、むしろ最低だと思う。
「まあ、俺は引っ越すけど友達なことに変わりはないから、神奈川に遊びにきた時は連絡しろよな」
「……ああ」
こんな時でさえ、気の利いたセリフがひとつも出てこない。
坂口との付き合いは片手で数えられてしまうほど短かったけれど、寂しいという感情はしっかりと胸にあった。
なのに、最後まで言えなかった。
大好きな野球を奪って、ごめん。
引っ越しを決断させてしまって、ごめん。
全部、ぜんぶ、俺のせいだと。
この降りやまない雨は俺のせいなんだと、どうしても言葉にすることができなかった。



