紫陽花が泣く頃に




「お前さ、俺のこと舐めすぎじゃね? 今涼しい顔ができてんのは、俺が手を抜いてやってるおかげだってことわかってる?」

ここで嘘でも謝っておけば菅野は満足するのに、柴田は煽るように鼻で笑った。

「手を抜いてくださいって私が頼んだことあった? 威勢だけは一丁前でそっちが勝手に怖じ気づいてるだけでしょ?」

教室が静まり返る。正義感の強い誰かが止めてくれたらいいのに、周りは見てみないふりをしてるだけ。

「なんだと?」

「不良ぶってるけど、普通にダサいよ。髪色も腰パンもピアスも、こうしないと弱く見えるからって言ってるみたい。いい加減、自分の身の丈に合った振る舞いをしたら?」

「……てめえ」

菅野が柴田の胸ぐらを掴んだ。その瞬間、プチッとセーラー服の胸当てのボタンが外れる。

さすがにヤバいと思いはじめたクラスメートたちが、顔を見合わせていた。柴田は顔色ひとつ変えずに菅野のことを睨んでいる。

……なんでそんなに強気なんだよ。

柴田は引かない。例え菅野に殴られても、泣いてごめんなさいなんて言うやつじゃない。

巻き込まれたくない。関わりたくない。面倒だ。頭ではわかっているのに、俺は思わず声が出ていた。

「やめろよ」

菅野は頭に血がのぼっている。もしかしたら本当に柴田に手を上げるかもしれない。

「は? なんか言った?」

菅野の視線が俺に向いた。止めたのはいいけれど、先の展開をなにも考えてなかった。

「えっと……もうすぐチャイムが鳴るだろ。これじゃ、他のみんなも移動ができない」

クラスメートも巻き添えにして、あえてこう言ったほうが菅野を刺激しないと思った。タイミングよく予鈴が鳴ったこともあって、菅野の手が柴田から離れた。