「なあ、小暮。この学校もそろそろ本気でヤバいらしいぜ」
終業のチャイムと一緒に、坂口が振り向いた。俺の前の席に座っている坂口は数少ない友人のひとりだ。学校以外の場所で遊んだことはないけれど、休み時間を共に過ごすくらいの仲ではある。
「ヤバいってなにが?」
「ほら、隣のクラスも人数が半分になったから、教室をひとつにまとめるって話あるじゃん? こんな状態じゃ来年の新入生の見込みはないから、ふつうに定員割れは確実だろうって」
俺がこの高校を受験した時も学校側が希望していた人数よりも、大幅に下回る結果だったと聞く。
受験勉強をしなかった俺にとってはラッキーだったけれど、生徒数の減少が続くといよいよ教育委員会が動き出す。新入生の見込みがないってことは、来年の受験者を募集するなという停止命令が下ってもおかしくない状況だ。
「まさか廃校ってこと?」
「いや、どっかの高校と合併するって噂だよ」
……合併? それは困る。
どうせ吸収されるのはうちの学校だろうし、この校舎に思い入れなんてないけれど、この町からは絶対に出たくない。
「どうやったら合併を回避できるか考えてんだろ。小暮ってけっこう顔に出やすいよな」
「どうやったら回避できると思う?」
「そりゃ、お天道様に聞いてみないとわかんねーな」
坂口は降りしきる雨を指さしながら笑っていた。
坂口は根っからの野球少年だ。聞いてもいないのに自分のことをよく喋ってくれるやつだから、坂口が小中と野球部に所属してたことも教えてくれた。だから坂口は口ぐせのように『野球がやりてえ』と言う。けれど、グラウンドのぬかるみで運動部は廃部同然。よって野球部員は自主練と銘って室内で素振りばかりをやらされている。
もて余してる体力。使いどころがない筋肉。雨さえなければと、彼が空を睨んでいた回数は数えきれない。



