紫陽花が泣く頃に








「――こ、ぐれ、小暮!」

慌てて我に返ると、数学の先生が鬼のような形相でこちらを見ていた。絶え間なく降る雨を見つめながら少しの間、物思いに耽りすぎていた。

「前に出て答えなさい。わかりませんはなしだからな」

急かすようにして、黒板に書かれた数式を指示棒でさしていた。俺はしぶしぶ席から離れて、黒板に向かう。素早くチョークを走らせて答えを書き込むと、少しだけ教室がざわっとした。

「よ、よし。正解だ。戻っていいぞ」

俺を注意する名目で前に立たせたにも関わらず、あっさり答えてしまったもんだから、先生も少しだけ気まずそうにしてた。

再び席に着くと、隣の柴田と目が合った。柴田は時々、目を逸らさずに俺のことをじっと見る時がある。そうなると、なぜかすべてを見透かされてるような気持ちになって、落ち着かなくなってくる。

「な、なに?」

「……べつに」

柴田は頬杖をついたまま、俺から視線を外した。

横から吹き付けている雨が、窓に強く当たっている。ざあざあという雨音は、美憂と一緒に選んだシャーペンの音に似ていた。

やっぱり海じゃなくて、雨だったんだ。