紫陽花が泣く頃に



「とりあえず……入る?」

俺は柴田に向けて傘を傾けた。男なら俺のを使えよ、なんてキザなことを言って自分は学校まで走っていくのがセオリーなのかもしれない。

でもそんなことを申し出れば柴田はムキになって、だったら私が走るよ、なんて言い返してくることは簡単に想像がついた。

「小暮と相合傘をしろってこと?」 

「嫌ならいいけど……」

「……嫌だけど、入れて」

気が強いと見せかけて、柴田にたまにドキッとするほどか細い声を出す。

相合い傘というよりはイヤイヤ傘。お互いに不本意ではあるけれど、雨の中を同じ歩幅で歩き出した。

ぽつぽつ、ぱらぱら、じとじと。

今日の雨は、やけに穏やかな音を奏でている。

傘の中は思っていた以上に狭かった。ただでさえなにを話したらいいのかわからないのに無言だけが続いた。

「私のほうに傾けなくてもいいから」

柴田が傘の持ち手を少しだけ押した。英語の教科書の時もそうだった。俺と肩が当たらないように小さくなっていて、教科書が見えやすいように柴田側の机のほうに置けば、すぐにちょうど真ん中に戻される。

傘も、柴田にとっては真ん中がいいらしい。

たぶん柴田はあまのじゃく。無骨で刺々しいところもあるけれど、きっと悪いやつではないんだと思う。