紫陽花が泣く頃に




美憂がいるはずがない。

頭では呆れるほど分かっている。

でも彼女は急な通り雨にあうと、いつもタバコ屋の前で雨宿りをしていた。誰が見ても美人な美憂と、何年か前に潰れたままのタバコ屋。そのふたつがあまりにアンバランスだったことを思い出す。

あの場所に美憂がいるわけがない。でも、いてほしいと願ってしまう。

「ハア……ハアッ……」

バシャバシャッと、水しぶきが上がる。スニーカーの底が冷たくなって、雨が靴下を浸食していた。

息が切れてきた頃、色褪せたオレンジ色の屋根が見えてきた。タバコ屋の前にはたしかに女の子が立っていた。でもそれは……。

「ハア……ッ、柴田……」

当然のことながら美憂ではなかった。

柴田はかなり驚いた表情をしていた。血相を変えて走ってきた俺に対して、何事かと思ったことだろう。

門田のおっちゃん……。全然違うじゃねーかよ。

たしかに背丈や体格は似てるかもしれないけど、美憂はこんなに仏頂面ではない。