「慰謝料? むしろ鼻の形がよくなって感謝してほしいぐらいだけど」
菅野はきっと、私のこういうところが気にくわないんだろう。みんなが彼を怖がっているけれど、私はそう思わない。むしろ女は俺に逆らえないだろっていう態度が鼻につく。
「お前、マジで調子に乗るなよ」
菅野の手が私に伸びてきたけれど、そこへたまたま学年主任が通りかかった。
「菅野、なにしてるんだ!」
日頃から目をつけられている菅野は、教師たちの間でも評判が良くない。
「……ち、なんで俺が注意されなきゃいけねーんだよ」
菅野は舌打ちをして、どこかに行ってしまった。菅野からしてみれば悪いのは私のほうなんだろう。たしかに、バスケットボールを顔面に当てたのは、良いこととは言えない。でも私だって、適当に投げたボールがまさか当たってしまうなんて思ってなかった。
ふと視線をずらすと、小暮千紘が私のことを見ていた。
私は、小暮のことが苦手だ。彼もまた理由もわからず、一方的に嫌われていると思ってることだろう。
小暮は目立つ生徒ではないし、顔も身長も平均的。はっきり言えば特徴がなくて、漫画で例えるならボブキャラみたいな人だ。
なのにあの子は……いつも『千紘くんが、千紘くんは』って、小暮の話ばっかりしてた。
頭がよくて、思いやりがあって、少しぼんやりしててもいざという時には頼りになる。千紘くん以上に優しい人はいないんだって、彼のことを恥ずかしいくらいに褒めていた。
でも、私から見た小暮の印象は違う。
いつも無気力で、なにに対しても興味がないって顔をして、恋い焦がれるように空ばかりを見上げている。
その寂しげな瞳を見ると、私はたまらない気持ちになる。それで、あの子のことをひどく思い出す。
だから小暮には、あまり近づきたくない。



